鍵の皇子と血色の撫子
 ――貴女は知らなくていいのです。あのとき姫の叔父貴に憑いた鬼が、ガクの手によって解き放たれていたことを。

 鍵とはつまり、開閉が可能な存在。
 ゆえに悪しきモノを封じることもできれば、解くこともできる。
 撫子は聖岳とガクが国のために悪しきモノを封じていると信じているけれど。

「貴女は、僕たちのもの」

 撫子の叔父は撫子を溺愛していた。第三皇子との婚約にも反対していた。神官一族の特別な姫君である撫子を外つ国の血が流れる異形の皇子に嫁がせるなどおぞましいといたるところで口にしていた。だから聖岳は願ったのだ、自分がかの国で平凡な容姿――たとえば黒髪――だったなら。
 それゆえ悪魔は黒髪の聖岳の姿を形作り、もうひとりの鍵の皇子だと名乗ったのだ。撫子の叔父が心の奥底に飼っていた鬼を解錠して。
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