鍵の皇子と血色の撫子

　海外へ留学したのは例の鬼を解放した直後だ。鬼は結婚を決めた帝を亡きものにしようと画策するだろう、現に撫子の叔父に憑いた鬼はその場にいない第三皇子のかわりに帝を標的にした。父親がそう簡単に死ぬとは思わなかった聖岳は、撫子の叔父が失脚すればそれでいいとだけ考えていた。けれど、事態は思いがけない方向へ転がっていた。その場にいた第一皇子が死に、叔父に連れられてきた撫子姫もまた凶刃に倒れた、と。

　撫子を愛する彼がまさか撫子を傷つけるとは思わなかった。
　それ以来、聖岳は撫子とどうかかわればいいのかわからなくなる。
　それでも彼女は自分の、自分とガクのたったひとつの鍵穴で、大切な守りたい女性だった。

「今度こそ、間違いません」

　結果的に撫子の叔父は処刑され、ガクの思惑はうまくいったように見えるが、失ったものも多かった。
　ようやく周りを黙らせ、結婚までこぎ着けたのだ。
　これから聖岳がガクとして真実の姿をさらけ出すのは撫子姫の前だけでありたい。けれど、撫子を奪おうとするものがいるのなら……ふたりでひとりの鍵皇子は容赦しない。