鍵の皇子と血色の撫子

「撫子さま。神皇家からの伝達です。“次の双子の満月の夜、皇城にて晩餐会あり。聖岳と逢い、話を詰めよ”……って一方的すぎます! 聖岳さまから何も連絡が来ていないというのに」
「壱畝、ありがとう。晩餐会が行われることは存じているわ。ただ、その場に聖岳さまがいらっしゃるというのは初耳で」
「ですよね! これは文句のひとつやふたつやみっつくらい言ってもいいと思います」
「……そんなにたくさん文句があるわけないじゃない。わたくしからすればお逢いできるだけで嬉しいのに」
「ですが、壱畝は撫子さまが不憫で……」

 十五歳の壱畝は三年前に撫子につけられた魔術師兼侍女である。婚約者である第三皇子を一途に想う撫子を応援しつつも、彼女に何も返さない男に苛立っているらしく、しょっちゅう聖岳に対して愚痴を口にしている。彼女自身、聖岳と逢ったことなど一度もないが、一部からはこの国では見慣れぬ金髪青目から、異形の皇子と揶揄される男が自分の主の婚約者であることが納得できていないらしい。撫子の方が黒い噂を多く持っているにもかかわらず、壱畝はそのことについてはまったく気にしていない。
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