鍵の皇子と血色の撫子
「壱畝は知らないからそんなことを言えるのよ。聖岳さまの真実(まこと)の姿を知らないから」
「撫子さま、それはむかしのはなしでしょう? いまの皇子は変わってしまったかもしれませんよ」

 撫子が知る皇子の真実など過去のはなしだと一蹴し、壱畝はため息をつく。

「たしかに、幼い頃に出逢った聖岳さましかわたしは知らないわ……」
「でしたら、次の晩餐会で真実の姿を暴けばいいのです」
「暴く?」
「白鷺宮家に仕える郷条(ごうじょう)の人間であるこの壱畝が、とっておきの秘薬をご用意いたしましょう! その名も“真実の姿をさらけ出す薬”を――……!」


   * * *


 撫子が十歳の夏に、謀反が起きた。帝は軽傷で済んだが、父王を庇った第一皇子が帰らぬひととなった。
 神皇帝へ刃を向けたのは、撫子を可愛がってくれていた叔父だった。
 そのとき傍にいた撫子にも、彼は容赦なく刃を振るった。後に、悪しき鬼に憑かれたのではないかと囁かれたほど。
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