鍵の皇子と血色の撫子
「理由がどうあれ、叔父が帝を暗殺しようとしたという事実は変わりません」

 包帯だらけの十歳の少女はくすくす笑う。
 この場に聖岳さまがいなくてよかった、と心のなかで嘯きながら。

「でも、あの鬼を御することができたのは、偶々(たまたま)、わたしがいたから。そうですよね、神皇さま?」


   * * *


 晩餐会の場に現れた第三皇子は、幼い頃に見たときよりも清冽な印象が強くなっていた。黄金色の髪は幼い頃に比べくすんだ色味に落ち着いたが、海の色を彷彿させる鮮やかな蒼き瞳の煌めきは変わらない。海外留学によって培われた語学力や視野のひろい考え方はこの先、国を動かすための鍵として相応しいものだろう。亡くなった第一皇子に代わり、いまは平凡な第二皇子が次期神皇帝となっているが、聖岳が本気になれば帝の椅子を奪うことなど容易いだろうと国民は囁いている。
 その一方で、兄皇子を殺した男の姪をいまも婚約者として扱っている聖岳のことを意気地なしだと馬鹿にする人間もいる。血色の撫子姫を妻に望むなど正気の沙汰ではないと、あの場にいた第二皇子も畏れているのだから。
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