鍵の皇子と血色の撫子
「ずいぶんとご無沙汰してしまったな。撫子姫」
「お久しぶりです聖岳さま。ようやくかの国に戻ってらっしゃったのですね」
「ああ。そろそろ貴女との婚儀について動かないといけないからな」
「そのことなのですが」
「壱畝からきいたよ。あとで部屋まで送る。そのときに話そう」

 ――では、そのときに薬を盛ればいいのですね。

 壱畝に目配せをすれば、彼女は承知したとばかりににっこりと微笑みを、返す。


   * * *


「まずは無事の帰国をお祝いいたします」
「姫、そちらは?」
「この日のためにと用意しました美酒でございます」
「珍しい色をしている」

 単体で飲ませるのは難しいだろうからと、壱畝は透明なシャンパンに例の秘薬を混ぜていた。撫子のグラスにもシャンパンが注がれているが、こちらに混ぜられているのは薬ではなく単なる苺の果汁だ。

「撫子姫のグラスは赤い色をしているのだね」
「ええ、壱畝が選んでくれたの」
「そうか」
「中身は苺の果汁ですよ」
「まるで、血のように赤いけど、な」
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