鍵の皇子と血色の撫子
 くくく、と揶揄しながら聖岳は手渡されたグラスを撫子のそれにぶつけ、乾杯と口にする。彼のグラスには例の秘薬が混入している。まるで血のように赤いといわれた撫子のグラスには苺の果汁だけが入っているはずだ。
 口に運んだ聖岳は一瞬顔をしかめたが、何事もなかったかのように飲み干し、それを見て安心したように撫子もグラスの中身を空にする。

「それで、何を混ぜたんだい?」
「なんの、ことでしょうか?」
「とぼけないで。壱畝が用意したこのお酒だよ」
「……やっぱり見逃してはくれませんよね」
「姫?」
「わたしが壱畝にお願いしたんです、真実の姿をさらけ出す薬を聖岳さまに飲ませたいって」
「そんなことだと思ったよ――お前はもう、俺のほんとうの姿を知っているはずなのに、なぁ?」

 その瞬間、金髪青目の皇子の姿が、真っ黒に染まっていく。
 撫子と同じ、かの国では平凡な、黒髪の青年の姿に。
 ただ違うのは、瞳の色が血のように赤いところ。

「聖岳さま……いえ、そのお姿はガクさまですね」
「俺のことを忘れてくれなかったのかい? 撫子」
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