心の温度
1番ビックリしたのは啓太や七海ちゃんと同じくらい博美と塚田さんがはしゃいでいた。

「うちのお母さんと塚田さんが、はしゃいでる…」

「ふふふ。お母さんはいつも冷静なイメージがありますが今日は可愛いですね。」

「観光牧場にして喜んでもらえて俺も嬉しい」

「私達はコーヒーでも飲んでベンチに座りましょうか」

「お兄ちゃんと彩音さんは座ってて、私コーヒー買って来ますから」

「ああ、頼むわ」
彩音と悟でベンチに腰掛ける。
「主任、今日は本当にありがとうございます。啓太にはあまりこういうレジャーに連れて行ってやれなかったので私も嬉しいです。」

「イヤ〜俺もなかなか七海を連れて行って無いんですよ。週末に買い物や家事をするから行ったとしてもショッピングモールのゲームセンターの乗り物くらいで…」

「分かります。私もそうですから…」

「でも…あ、啓太くんのお父さんはレジャーは…」

「ああ、元夫は水曜日と木曜日しかマンションに戻らなかったのですれ違いでした。たまぁに啓太だけを主人の実家へ遊びに連れて行ってくれましたが、遊園地や公園には連れて行ってもらえなかったから…」

「え? 元ご主人は単身赴任だったんですか?」

「まぁ、なんというか…結婚してから実家の旅館の稼業の修行というか…私も旅館へついて行こうと思っていたんですが、会社があるだろうからと別居のようなカタチになってしまって…啓太が産まれてウチの母も旅館の方で一緒に暮らせないか提案したら、部屋もないし赤ん坊がいるとお客様の迷惑になるからマンションで暮らしてくれって言われて…」

「………ご主人の家族からイジメられて…啓太くんを抱えてよく頑張りましたね。1人の育児は本当に大変だったのわかります…俺は知恵に頼りっきりで妹の婚期を逃してる悪い兄貴です」

「…….」彩音は同じように1人で子育てしている主任にこの辛さを理解してもらえた言葉に涙が出てきた。

「お待たせ〜。え!彩音さん? ちょっとお兄ちゃん。何したのよ! 彩音さん泣いてるじゃん」

「え!俺は何も…」

「違うの知恵さん、主任に温かい言葉をかけてもらって有難くて泣いちゃったの…ゴメンなさい…」

「そう? ウチのお兄ちゃんは優しいでしょう。
彩音さん、これからもお兄ちゃんと仲良くしてあげて下さいね。お願いします。」

「もちろんです。こちらこそよろしくお願いします」
 
「……」悟は彩音が泣いた事にビックリしたが1人でどれだけ頑張ってきたのかがわかった気がした。
子育て以外の事も相当辛かったと思う…
そしてこういう孤独の中の子育ては、経験した者でなければわからないと悟は思った。
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