コンクリートに蝉の抜け殻
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自習する生徒のために夏休みにも関わらず開放された教室は、思っていた以上に冷房が効いていた。寒いくらいだった。
長袖のワイシャツ、まくっていた袖を直して、ベストも着てきてよかったと思う。セーラー服だったからこうはいかなかったのかなと頭に浮かべながら、手首のボタンをしっかりとめた。
数学のワークを取り出し、ちらと周りを見る。保科の姿はなかった。
──ワイシャツのボタンって、謎にかたいところあるよね。
いつだったか、保科が言っていた。本当にいつのことだったっけ。下校前に昇降口で会ったとき、だった。それ以外の情報は頭にない。
晴れていたのか、曇りだったのか、雨だったのか。何曜日だったのか。覚えていない。
「たとえば?」
「手首。第1ボタン。……これくらいだけど、まあ、3箇所もあるよね」
「確かに」
「俺さあ、外出るたびに腕まくりして、教室入るたびに長袖にして、ってしてるのに、ぜんっぜんかたいままなんだよな。こいつ」
保科が手首のボタンをはずすのに苦戦し続けているあいだ、教科書やノートの複数冊入っているだろうリュックサックがガサガサと揺れ動いていた。
そんな様子がおかしくて、けれど、それを見続けるのもわるいかと思った。
「保科」
「んー?」
「はずしたげるよ」
「まじ? さんきゅ」
「ううん」
その、数秒。保科がわたしの行動に身を任せてミリとも動かないから。
気がついたら、思うままに口を動かしてしまっていた。