笑顔が消える
修也2️⃣

実家のブザーをならす
「はい。」
と、少し硬い母の声
玄関を開けると
母が俺を見て
驚きと落胆の顔をして
「上がりなさい。」
と、言い
俺に道を開けてくれた。

靴を脱いで廊下を進み
リビングのドアを開ける。

ソファーには、父が座っていた。
俺の気配を感じたのか
目を開き、俺を見た親父は
見る見るうちに顔が変わり
立ち上がると
俺を殴った
「お前、何をやってるだ!!
女にうつつを抜かしてるから
そんなバカみたいな頭に
なってるんだ!!
みっともない
いい年した男が。」
と、怒鳴られた。

頭?と思っていると
ジョキ、ジョキと音がして
絨毯の上に髪の毛が落ちる。
「あなた?!」
と、母の声に。
「気持ち悪い。
髪を切ってこい。
今すぐ。
春、山ちゃんに連絡してくれ。」
と、父に言われて
俺は小さい時に通っていた
理髪店へ。

おじさんに笑われながら
髪を切られた。
「修ちゃん。えらく若ぶった
髪型にしてたんだ。
嫁さんに言われたの?
いや、あの娘は
そんな娘じゃないな。
あっ、もしかして若い愛人か?」
と、言われてドキっとした。

俺は、美弥にあわせていたのだろうか?
美弥がテレビの俳優を見て
この人が好きなんです。
と、言ったのを聞いて
美容室で、その俳優の
髪型にして貰ったんだ。
あの時、美容師もギョッとしていたような。

「やはり、変でしたか?」
と、訊ねると
「まぁ。修ちゃんの年では
やらないだろうね。
30代前半じゃない。
まあ、客商売してるなら
もう少し上でも、ありかな。」
と、言われて
鏡を見ると
あ〜、俺がいると、思った。

おじさんにお礼を言って
実家へと戻ると

母は、ほっとした顔をして
俺を親父のいる部屋に
理髪店のおじさんは
俺の頬を見ても何も言わなかった。
母か······

ソファーに座ると
「ふん。離婚届は?」
と、俺をちらりと見て訊ねるから
俺は、ソファーから降りて座り
頭を下げる。
「身勝手だが、もう一度
やり直したい。
今度は、絶対に間違わない。」
と、言うと
「御託は要らない。
離婚届を出しなさい。」
「だから、親父!!」
「お前、自分が何をしたのか
わかっているのか?
どれだけ彩代さんを子供達を
傷つけたのか
本当にわかっているのか?
五年だぞ?
わかるか?」
と、言う親父に
「わかっているとは言えないが
とんでもないことをした
と、思っている。」
と、言うが
「やった人間と
やられた人間とは
まったく違う。
やっている人間は、
頭の中がおかしくなっているから
正常な判断は出来ない
だが、やられた人間は、
常に正常だから
悩み苦しむ
それも信じきっている相手からの
裏切り行為。
彩代さんは、悩んで悩んで悩んで、
苦しんで、苦しんで、決めたんだ。
今更むしの良い話があるか!!」
と、言われて
膝の上で拳を握る。
返す言葉がない
でも、彩代を失いたくなかった。

しばらく、沈黙の後に·······
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