笑顔が消える
小野 暁3️⃣

待ち合わせ場所に着くと下を向いて
ベンチに座る彩代さんが見えた。

急ぎそばへと行き
「すみません。待ちましたか?」
と、言うと
ハッとした顔をしながら
顔を上げる彩代さん。
慌てたように
「いいえ。小野さんは時間通りです。
私が、少し早く着きました。」
と、言う彩代さんは、なんとも
言えない顔をしていた。
「そうですか。
どこかに入りますか?
それともここで良いですか?」
「ごめんなさい。
小野さん、お腹すいてますよね?」
「まぁ、空いてないと言えば
嘘になりますが
今は、彩代さんの話しが気になっていて
食事は、後で構いません。」
「あ〜っ、すみません。」
「いいえ。彩代さんの表情が
難しい?元気がない?
そんな気がしていますから
余計でしょうか。
何でも思いのまま話して下さい。
多少の事では落ち込まないと
思っています。」
と、言うと
彩代さんは、ハッとして
微笑んでくれた。

彼女は、昨日の報告をしてくれた。

次男が父親を殴った上、発した言葉
長女の言葉
相手の女性のお母さんの言葉
お義父さんの言葉を。

夫であった人にも
夫の相手だった女性にも
話すどころが目を向ける事も
出来なかったと言い

器の小さな自分に情けない
と、言葉を続ける彩代さんに
この人は······と、思い

「当たり前の事です。
あちら側からの謝罪があるのが
本当です。
彩代さんは、被害者なんですから
彩代さんから、何かをする必要は
ありません。
まして気に病むなんて。
人が良すぎますよ。」
と、言うと
パラパラと涙を流しながら
彩代さんは、
「そう····言って···貰える··なん····てっ···」と。
俺は、彩代さんが少し落ち着くのを
待った。

少しすると
「子供達が自分と同じ名字に変えたい。」
と、言ったが、
兄と二人で
「「三嶋の祖父母が寂しがるから。」」
と、話してきかせたと言った。

長女は、結婚したら
名字は変わるだろうが。

「落ち着いても、やはり変えたいと
思うなら、変えれば良いと思います。」
と、伝えると
少し顔上げて
「····そうですね。」
と、言いながら彩代さんは、
みるみる間に緊張した顔になり

「小野さん。
本当にありがとうございました。
小野さんの存在
小野さんの言葉に
どれだけ、救われ
どれだけ、安心出来たか
わかりません。
それを五年近くも。
本当に申し訳ありません。」
と、言う彩代さんに
「本当に、俺が勝手にやった事です。
気にされないで下さい。
ただ、少しでもあなたの役にたてたなら
良かったと思っています。」
と、言う俺に彩代さんは、
頭を横に振りながら

「少しではありません。

あの〜·······
えっと·······

私は、あなた、いえ、小野さんより
年も上です。

それにバツもつきました。

こんなおばさんより
小野さんに合う素敵な女性が
いらっしゃると思います。」

と、戸惑いながら話す彩代さんに
やはり······無理なんだ·····と思い····

「わかりました。
彩代さんは、優しいから
無下にできないですよね。
俺は、太智さんの友人でもあるし。
でも、大丈夫。
それと、これは違いますから。」
と、必死に我慢して言う俺に

俺の顔をもう一度、見上げて
少し悔しそうに······

「····もう!!
ちゃんと最後まできいて下さい。

心臓が口から出るかと思うほど
緊張してるのだから·····」
と、少し怒った顔をしながら
言う彩代さんに
俺は、嫌われてるんじゃないのか?
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