笑顔が消える
両親の前で
お母様から案内された部屋には
暁さんに似た顔の男性が。
私が入るとその男性は
立ち上がり、お母様は横に立たれた。
暁さんが
「父さん、久しぶりだね。
俺、やっと共に生きて行きたいと
思える女性に出会えたよ。
こちらは、柳瀬 彩代さん。
Cafe-tasteに務めている。」
「太智君の?」
「そう。
太智さんのお嫁さんの香菜恵さんと彩代は、
同級生で仲良しなんだ。」
「そうですか?香菜恵さんの。
初めまして小野 善です。
暁の父親です。」
「母親のすみれです。」
と、お父様とお母様。
「柳瀬 彩代ともうします。
離婚歴がある上に
暁さんより三才年上です。」
と、言うと
「彩代さんで良いかな?」
と、お父様。
「はい。」
と、答えると
「私も家内も暁が
幸せなら何も言うことは
ありません。
だけど太智君の知り合いで
尚且つ こんな綺麗な方で
驚きました。
暁の前の話は知っていると思うが
暁を傷つけてしまって
親としても情けなくて。」
と、言うお父様に。
「暁さんのお話し 伺っています。
私の事もきいて頂いています。
辛く苦しい時期
暁さんにずっと助けられました。
もちろん、太智さんも香菜恵にも。
三人がいてくれたから
私は乗り切る事ができました。
子供達や母、そして兄夫婦も
味方でいてくれました。
一番は、元の夫のお父さんが
私の為に息子を断罪してくれました。
どんな気持ちだったかと
思うと、辛いのですが。
私は、私の家族は救われました。」
と、言うと
「立派なお義父さんだったんだね。」
と、言ってくれたお父様に
「はい。」
と、返事をすると
「彩代は、
ずっとつらい思いをしてきたんだ。
しなくて良い経験をして。
俺は、ずっと彩代に笑っていて
欲しいと思っている。
それが、俺の幸せだから。
父さん、母さん、
彩代と結婚します。」
と、言ってくれる暁さん。
私も
「初婚でなく申し訳ない気持ちで
いっぱいですが、
暁さんと共に生きて行く事を
お許し下さい。」
と、頭を下げると
お二人は、うんうんと頷きながら
「二人で幸せになりなさい。」
と、お父様。
「娘ができて、こんな嬉しい事は
ありませんよ。」
と、お母様。
私は、また温かな人達に出会えた
事が嬉しくて涙が溢れた。
暁さんは、そんな私の涙を
ハンカチでそっと拭いてくれながら
「必ず、幸せにする。」
と、言って
いつ用意していたのか
指輪を出して左手に嵌めてくれた。
お父様、お母様は、
一瞬驚きながら拍手をしてくれた。
「·······ありっ····あり··がとう·····」
と、言うと
「ドキドキした。
両親の前で指輪を渡したかったんだ。
嘘偽りはないと。」
と、言いながら指輪のケースを
渡してくれたから
思わずクスクスっと笑ってしまうと
お父様、お母様も微笑んでくれた。