恋をするのに理由はいらない
「颯太。澪になんか飲み物だしてくれ。俺はちょっと部屋戻ってくる」

 俺がそう言うと、颯太は素直に立ち上がり「りょーかーい」と気の抜けた返事をした。
 実樹も同じように立ち上がると、澪のそばに寄って、子犬が尻尾を振っているような笑顔を見せた。

「初めまして。朝木実樹です。いち兄がいつもお世話になっています」
「枚田澪です。こちらこそいつもお世話になっています」

 なんだかよくわからない挨拶をする2人に颯太が割って入ると、「お嬢、何飲む? ビール? チューハイ?」などと自分本位な質問をしていた。

「おい。お前ら、澪を困らせるなよ?」

 とりあえず釘を刺し、俺はリビングをあとにした。

 先に着替えを済ますと、ライティングテーブルに無造作に置いていた資料を集める。そのうち澪に見せようとプリントアウトしてあったものだ。
 まだ作りかけの資料もパソコンに入れっぱなしで、そのノートパソコンをたたむと資料と共に適当なバッグに放り込んだ。

 メシ、どうするかな……

 時間はもうすぐ19時。どっかで食べてから澪の家に行くか、と部屋の扉を開け廊下に出ると、またゲームを再開したのか絶叫が聞こえてきた。
 威勢のいい颯太の声と、必死な実樹。そしてそこに、澪の叫び声も混ざっていた。

「ほーら、お嬢、かかってこいよ!」
「あっ、澪さん、避けて避けて!」
「えっ、えっ? どうすればいいの⁈」

 リビングのソファでは、澪を真ん中にして、今度は得意げに相手のライフを削る颯太と、必死で澪に指示を送る実樹がいた。
 だが、さすがに超が付くほど初心者だろう澪が勝てるわけもなく、あっさりとKOされていた。
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