恋をするのに理由はいらない
「よっしゃあ! 俺の勝ちぃ~」
「ちょっと、ズルいわよ! 私、初めてなのよ?」
「そうだよふう兄。大人げないよ」

 そんなやりとりを見ながら声を出して笑っていると、澪は不服そうな顔をして振り向いた。

「もうっ! 一矢もなんとか言って? 颯太、本当に酷いんだから!」
「お嬢が下手すぎんだよ」

 元々顔見知りだっただけあって、お互い遠慮はない。と言っても数回会っただけだと思うが。

「じゃあ、今度はいち兄が勝負してみたら? ちなみに、夜ご飯かかってるからね!」
「一矢もゲームするの? じゃあ、リベンジしてもらおっか」

 誰とでもすぐ打ち解ける実樹に、澪はもう実の弟のように接していた。

「しかたねえなぁ」

 ソファを周り、澪と颯太の間を開けさせてそこに座る。澪からコントローラーを受け取ると、「で? 勝敗は?」と尋ねた。

「10回勝負で、僕が8回勝ち。ふう兄3回」
「いや、さっきので4回だろ!」
「今のはノーカンよ!」

 実家で兄弟たちとゲームをしていたころを思い出し微笑ましくなる。早く下の妹や弟たちとも、澪と一緒にこんなふうに過ごせたらいいのに、なんて一人思っていた。
 
「とりあえず瞬殺するか。覚悟しろよ? 颯太」

 隣に向かってニヤリと笑うと、颯太は「ぜってー負けねぇ!」と返していた。

 またリビングに皆の叫び声と笑い声が響く。澪はさっきまでの不安を忘れたようにずっと笑っていた。

「くっっそっっ!! 兄貴の腕鈍ってると思ったのに!」

 予告通りに瞬殺、しかも2回連続で、された颯太は悔しそうに叫んでいた。

「ま、俺には勝利の女神がついてるからな?」

 余裕で返すと、颯太から『うわぁ……』と聞こえてきそうな白けた視線が飛んできた。
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