略奪王女と堅物夫の秘密 〜我々は鍵と鍵穴である〜
選ばれない男 ※R18※
その部屋の中には寝台の上で絡み合う男女が居た。
荒い息遣いの中に混じるのは熱に浮かされた男の声と女の艶かしい声。
ぎしぎしと耳障りな音とぬちゃぬちゃと粘り気のある水音。リズミカルに質感を持った皮膚のぶつかり合う破裂音が混ざって淫靡さを奏でる。
「っはっう……ぁ、もう……っ!で、ます!」
女の胎内を蹂躙していたモノが勢いよく抜かれ、男の呻めき声と同時に真っ白い体液が腹の上に吐き出された。
女の視線は自身の上に跨っている男の顔に向いている。しかし男の方は、たった今吐き出した己が欲望の果てに穢された滑らかな肌をじっくりと眺め、歪んだ笑みを浮かべた。
その下卑た顔に女は軽く失望を感じる。軽いため息を吐き、解放された両膝を胸の上で合わせ、「とぉっ!」という掛け声と共に、両の踵を男の鳩尾に向けて勢いよく叩き込んで、自分の上から排除した。
突然の出来事に、男は両手両足を広げた状態で「うひゃぅ!」と間抜けな声を上げながら、為す術もなく文字通り床まで転がり落ちる。
床に落ちた男が放心している間に、羽のような軽やかさで女が寝台から降り、腹の上に放出された白濁を#嫋__たお__#やかな手で拭い取り、それを見やって一瞬眉を顰めた。
そして、手の平に着いた白濁を男の顔に塗り付け、満足そうに微笑む。
「わたくしを誰と心得ているのかしら?其方の吐き出した欲程度で穢せる者だとでも思っていたと?たかが棒の分際で、面白くもない冗談でしてよ?」
詩歌を朗読するかのような穏やかな声音で、男を嘲笑するのは、日毎夜毎、男の間を蝶の如く舞い誘うという噂が絶えないアーナルヤ・ビアイシン。
ここ、エシモワ王国の王位継承権第三位にして元第二王女。建国以来、幾度も宰相を輩出してきた名門ワルエトージ侯爵ビアイシン家に降嫁した、れっきとした貴婦人である。
「おほほほ」と高笑いしながら、呆然と自分を見上げる男に背を向け、迷いのない足取りで続き部屋へと通じるドアを開けた。
「姫さま。如何されましたか」
「湯に浸かりたいわ」
続き部屋に控えていた者と短いやり取りをしながら、振り向くことなくドアの先へと消えていく。
寝台の置かれた薄暗い部屋に取り残された男は、慌てて続き部屋へ通じるドアを開けようとした。
が、鍵が掛かっていることに気が付き、扉を乱暴に叩きながら声を上げる。
「ふ、夫人!アーナルヤ夫人!ここを開けて下さい!」
幾度もドアを叩きながら呼びかけるが、向こう側からの反応は一切なく、へなへなと膝から崩れ落ち、左手は床に、右手を額に当てた。
「バカな……あんなに泣いて、この私に縋ってきたではないか……!」
床に拳を叩きつけると、キィと蝶番が軋む微かな音と共に光が差し込む。
アーナルヤに招かれた廊下側のドアが開いたのだ。
ハッと顔を上げれば、近衛兵の制服を着た者の姿が明かりを背に扉の外側で立っていた。
「姫より『早々に立ち去れ』とのお言葉である……我々が使う湯殿で良ければ案内しよう」
「こ、今宵は夫人と共寝のお約束をしたのだ!」
慌てた様子で立ち上がり、理不尽だと言わんばかりに怒鳴りつけてくる男に対し、騎士は抑揚のない声で事実を突き付ける。
「はっきりと言おう。姫は『用済み』だと仰られたそうだ。残念だが、お眼鏡に敵わなかった。そういうコトである」
「そんな馬鹿なコトがあるか!?私は夫人から誘われてこの部屋に通されたのだぞ!?」
真っ裸で取り縋ってきた男の腕を軽く振り払う無表情な騎士の答えは、実に素気無いものであった。
「貴君は選ばれなかったのだから、さっさと衣服を着るなりして、部屋から出てくれないか?清掃の者たちが困るんだ」
そのに満ちた言葉に、男は音が鳴るほど奥歯を噛み締めた。