破れた恋に、火をつけて。〜元彼とライバルな氷の騎士が「誰よりも、貴女のことを愛している」と傷心の私に付け込んでくる〜
 そうだ。彼とだってこんな風に、付き合った頃も本音でぶつかれていたら? ううん。クレメントとの事はもう既に終わったことだし「もしも」を考えるなんて、時間の無駄だ。

「踏み台っていうか……人生に無駄なことなんて、ないんだなって思ってたとこ」

 なんとなく、そう思った。木々が密集している深い森の中では、明るい陽の光は届き難い。茶色い葉っぱに埋もれた足元は見えづらい。でも、しっかりと自分で地面を踏み締めて歩いて行くしかない。

「はは。それはそれは。光栄だわ。俺も……ランスロットの事どうこうなくて、付き合っている間は、ディアーヌのことは可愛かったよ。お前が俺を好きで居てくれたのは、わかってたし? まあ、でも……」

 そこで言葉を止めたクレメントは、何とも言えない顔をした。

 でも私は別れた理由が他に何かあったとしても、別に知りたくはなかった。もしかしたら、別れた直後の私なら知りたがったかもしれない。けれど、あれからもう随分時間が経っていた。

 激しい恋の炎が消えて燻っていた熱も何もかも、綺麗に冷めてしまうくらいには。

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