破れた恋に、火をつけて。〜元彼とライバルな氷の騎士が「誰よりも、貴女のことを愛している」と傷心の私に付け込んでくる〜
 これが、普通の事だったなら。さらっとして、私は言い返せたはずだ。けれど、私はどうしても、ランスロットに元に戻って欲しかった。私の事を愛していると言ってくれた、彼に。

 そのまま。何も言えないままで、唇を噛み締めた。彼を見つめたままの私に、クレメントは記憶違いでなければ、今まで見たこともない切なげな表情になった。

「……そんな顔、すんなよ。ここの魔女は、なんか亡命に近い逃げ方をして、東の地ソゼクを出て来たらしいから……守護を与えている国レジュラスの王太子であるコンスタンス様の、直々の要請には従うだろ」

 苦い顔で眉を寄せたまま、くるりと体の方向を変えてクレメントは先に魔女の家の扉の方向へと歩き出した。私も、慌てて大きな背中を追う。

 どうか、魔女が引き受けてくれますように。空に祈るような、気持ちだった。

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