破れた恋に、火をつけて。〜元彼とライバルな氷の騎士が「誰よりも、貴女のことを愛している」と傷心の私に付け込んでくる〜
 私の思い込みで魔女というからには、歳を重ねていると思っていた。けれど、クレメントの姿を一目見た途端に目の色を変えた女性は若く、簡単に言うととても綺麗な人だった。焦茶色の緩く巻いた髪に、同色の瞳。整っている顔の造作は、陶磁器で出来ている人形を思わせた。

「突然の訪問を、失礼します。私は、レジュラスの王宮騎士団の筆頭騎士クレメント・ボールドウィン。同僚の一人が、東の地ソゼクに伝わるという呪術を掛けられて居ます。こちらが、我が国の王太子からの助力を願う書状です」

 俺様クレメントが、真面目な顔して仕事している。

 何だか、私は背中がむず痒い気持ちになった。いや、もちろん彼だって時と場合を考えて口調を変えるだろうし、仕事中は真面目なんだろうけど、私たち二人は、お互いに私的な時間を過ごす事が多かったから。

「ご丁寧にどうも……私はグウィネス。おや。こちらのお嬢さんは?」

 クレメントから白い手紙を受け取りつつ、魔女のグウィネスは、彼のすぐ後ろに居た私に気がつき不思議そうな顔をした。黙ってお辞儀をした私に、会釈を返す。

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