破れた恋に、火をつけて。〜元彼とライバルな氷の騎士が「誰よりも、貴女のことを愛している」と傷心の私に付け込んでくる〜
 でも、私たちが目的としていた浮き島の上に偶然火球がひとつ落ちて、消えることなく燻っている。

「ふえっ……」

 すぐにでも起こりそうな悲劇が頭を掠め、沼のほとりに立っていた私は、思わず素っ頓狂な間抜けな声を出してしまった。

 戦闘中のクレメントは、目の前の複数の魔物に集中しているせいか。先ほど自分の放った火球が、私たちが目的としている薬草がある浮き島に落ちたことになど全く気がついていない。

 一瞬だけ、考えた。大声を出して、彼に知らせて何とかしてもらう? ううん。複数相手に一人で戦っている彼に、そんな事をすれば……もしかしたら、大変なことを引き起こしてしまうかも。

 これはまずいと思った時には、もう私は自分自身がさっき「とても入るのは無理そう」と思っていた沼へと勢い良く入り、落ちた火球が未だ燻り細く白い煙も出だした浮き島へと遅い歩みながらも必死で進んでいた。

 クレメントが膝辺りまで埋まっているということは、私は腿半分まで埋まる。彼だってこんな理由でそう褒められても微妙だろうけど、長い足を持っているのは本当に羨ましい。

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