破れた恋に、火をつけて。〜元彼とライバルな氷の騎士が「誰よりも、貴女のことを愛している」と傷心の私に付け込んでくる〜
「ディアーヌ。僕は誰よりも、君のことを愛している。どうか、今は難しいとしても……時間を置いてからでも、僕との事を考えて貰えないですか」

 薄い桃色の唇が、優しく微笑む。私は人の顔の黄金比というものを、見た気がした。すべての美しいものに共通するという、割合の法則。

「……あの……」

「自分勝手に……すみません。また。ディアーヌ嬢」

 ランスロットは立ち上がり、呆気に取られ座ったままの私に礼儀正しく頭を下げて去って行った。

 ふらふらしながらも、彼の後ろ姿を見送ってから立ち上がる。それからどうやって家に帰ったかとかは、どうか聞かないで欲しい。だって、本当に覚えていないのだから。

 前触れもなく失恋した衝撃は、更なる強い衝撃によってどこかに吹き飛んでしまった。

 そして、ぼーっとした状態のまま健やかにベッドに潜り込む頃には、失恋の後の庭園での出来事は、都合の良い白昼夢を見たのかもしれないと思うことにしていた。

 だって、冗談にしても、笑えないし、面白くない。

 致命的。
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