破れた恋に、火をつけて。〜元彼とライバルな氷の騎士が「誰よりも、貴女のことを愛している」と傷心の私に付け込んでくる〜
 だから、彼女は私にこのナイフを渡した。ぎゅっとそれを握って、隠しポケットへと滑り込ませた。

「ラウィーニア。どうか、貴女は生き残って。でも、何かの理由で私が何かの足手纏いになりそうなら、自分のすべきことはちゃんとわかっているわ。それは、他でもなく私のためだから。決して、自分を責めたりしないで……ランスロット以外と、あんなことをするのは、きっと無理だと思うもの」

 ラウィーニアが何か言おうと口を開いたけれど、その時にガタガタと激しい音がして馬車が急に止まった。

 御者台に座り馬を操っていた御者はどうなったのか、それを考えるだけでも怖い。必死で私たちを守ってくれようとした彼が、どうか無事でありますように。

 ラウィーニアはさっと私の手を繋ぎ自分の身体で庇うように、扉の前に進み出た。

 馬車の扉は、ゆっくりと開かれた。いつもならば気にならないキイっという金具の音が、やけに不気味に響いた。

「やはり、貴方だったのね……ジェルマン大臣。いえ。もう単なるファーガス・ジェルマンかしら。自分の邸まで捨てたと聞いたけれど、この私に何か用かしら?」

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