破れた恋に、火をつけて。〜元彼とライバルな氷の騎士が「誰よりも、貴女のことを愛している」と傷心の私に付け込んでくる〜
 言葉を止めたのは、ラウィーニアの目が真剣に張り詰めて壊れそうだったからだ。

「こんな風に、目の前でディアーヌを喪って生きるくらいなら。一緒に……それに、私は国同士の交渉の道具にも、されたくない。コンスタンスは、私を救うために不利な条件をいくつも呑むことになるでしょう。これから王として国を背負う事になる彼の負担になりたくない」

「コンスタンス様は……深く悲しむわ」

 何の交渉術も持たない私にはそのくらいしか、彼女を思い留める言葉が思い付かなかった。

「……そうね。コンスタンスに、一生消えない傷を負わせることになるかもしれない。でも、ディアーヌを一人に出来ない」

 私はもういなくなるから……という言葉は、喉を鳴らして飲み込んだ。

 こんなに敵だらけの、逃げ場のない船の中。孤独な絶望を味わえとは、先に逝くことになる私にはとても言えなかったから。

「……あら。恋愛は友情に勝るものだと、聞いたけど?」

 彼女を残していかなくても良くなった安堵の気持ちで茶化して聞けば、ラウィーニアはようやく袖口で涙を拭いた。

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