破れた恋に、火をつけて。〜元彼とライバルな氷の騎士が「誰よりも、貴女のことを愛している」と傷心の私に付け込んでくる〜
 もしかしたら、こちらに向かってくる一行を全体を取り巻くような怒りが可視化されて見えてしまうんではないかと思う程に、その表情が物語るものは雄弁だった。

「……怒ってる」

 私が思わず震えてしまった声でぽつりとそう呟けば、ラウィーニアは自らの二の腕を摩るようにして言った。

「それは、怒る、でしょうね。ジェルマンは、国を裏切った挙句に、二度も私を狙ったことになるし……コンスタンスは、絶対に許さないでしょう」

「王太子殿下にこれほど愛されるって、とても大変ね。ラウィーニア……」

 従姉妹に真っ直ぐ向けられた大いな愛を身にしみて感じて、私は大きく息を吐いた。周囲が凍って気温が下がっているせいか、冬に外でそうした時のように息が白い。

「あら。それは、こちらの台詞よ。ディアーヌ。見て……あそこに居る船員たち。きっと、彼らは私たちを人質に使って、彼らを脅そうと軽率に思ったのかも知れないけど……」

 ラウィーニアが目を向けた先には、屈強に見える船員たち数人がもがくようにして動いていた。私はそれを見て、すごく不自然な動きだったので不思議に思った。

 けれど、その足元をよくよく見ると。

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