破れた恋に、火をつけて。〜元彼とライバルな氷の騎士が「誰よりも、貴女のことを愛している」と傷心の私に付け込んでくる〜
「恐らく、あの男の放つ呪術を防ぐには、黒い靄を身体に取り込まなければ解決です。あの時も、出来ればこうすれば良かったのですが……」

 ランスロットがそう言っているのは、きっとラウィーニアの襲われた時の事だ。私は、一瞬の恐慌から我に返り、ほっと大きく息をついた。

「グラディス。よくやった」

 上司であるコンスタンス様に褒められ、ランスロットは軽く礼を取った。プルウィットは、悔しそうにガンガンと何度も氷を叩いている。大きな身体をして、力も強そうなのに氷が破られる気配はない。

 呆気ない幕切れに、言葉が出ない。

「空気穴は?」

 完全に、この状況を面白がっている誰かの声が聞こえた。ランスロットは、プルウィットを閉じ込めた氷の棺にゆっくりと近付いて肩を竦める。

「狭いとは言え、空気は当分保つ。短時間ならば、死にはしないだろう」

「はー……流石氷の騎士。血も涙もないな。まじかー……この季節に氷の中とか、寒そう」

「自業自得だ」

 切り捨てるような冷たい視線と言葉は、氷の騎士らしい。私の前では決して見せない、ランスロットの冷酷な顔だった。

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