破れた恋に、火をつけて。〜元彼とライバルな氷の騎士が「誰よりも、貴女のことを愛している」と傷心の私に付け込んでくる〜
「素っ気ない弟で、ごめんなさいね。そういう年頃なのよ。仕方ないわ。デビューの時は、婚約者でなければ肉親がエスコートするのが普通だもの。でも、夜会って格好の出会いの場よ。もしかしたら、誰かが声を掛けてくれるかもしれないわね」

「氷の騎士ランスロット・グラディスも来るのかしら?」

「……どうかしら。コンスタンスが命じれば……だけど、言われた夜会には出て来ると思うから。その時に、誘ってみたらどう?」

「断られるのは、覚悟の上で挑むわ」

 そう言って彼女たち二人は、城の方の誰かに呼ばれたのか笑いさざめきながら去って行った。

 あんなに重たく濃い霧のように頭の中に立ち込めていた眠気は、どこかに飛んだ。むくりと上半身を起こし、視線を向ければ彼女たちはもう城の中に入っていた。

 自らの容姿を面と向かってここまで褒められた事もなく、自分への熱烈な思いを目の前で語られたのは初めてだった。とは言っても彼女は自分が居たと認識したとしても、それを言ったかは疑わしいが。

< 245 / 254 >

この作品をシェア

pagetop