破れた恋に、火をつけて。〜元彼とライバルな氷の騎士が「誰よりも、貴女のことを愛している」と傷心の私に付け込んでくる〜
「そうよ。もし、結婚でもしてたら別れるとしても、貴族院を通さなければいけない。でも、婚約もしていない口約束だけの男なんて、お別れしたのなら今ではもう他人よ。割り切って忘れなさい」

 ラウィーニアは多分、今までずっとクレメントと私が付き合っていたのを、余り快くは思っては居なかったのかもしれない。そして、あくまで予想だけれどランスロットはさっきの薄紫のドレスみたいに彼女のお眼鏡に適っている様子。

 そういえば王太子のお気に入りであるなら、彼女もランスロットと何回か会って話したことがあるのかもしれない。今まで何故か、その可能性に気が付かなかった。

「ランスロット・グラディスって……どんな人なの?」

「有能で真面目で堅物。あと、無口で不器用?」

「……不器用なの?」

 まるで決まっていた台詞を唱えましたと言わんばかりに流れるように彼を評したラウィーニアは、肩を竦めた。

「ディアーヌが今、疑問に思っている事は、すべて彼と会って直接に話せば解決するわよ。私とこうして話していても、それはわからない。本人と話すしか正解は出てこない。自分で会って話してみるしか解決しないことはあるわ。それで、今週末は行くの? 行かないの?」

 付き合って長い彼女には、私がこれからなんて答えるかなんて、どうせ全部お見通しなのに。

 こういう時には決して人を甘やかさないラウィーニアは、きちんと自分の意志だと自覚出来るように、口に出して言わせたいみたいだった。


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