破れた恋に、火をつけて。〜元彼とライバルな氷の騎士が「誰よりも、貴女のことを愛している」と傷心の私に付け込んでくる〜
 五人かの候補の中からたった一人選ばれた王太子妃の名前を聞いて、周囲からは高い悲鳴を含めた驚愕の声もあがる。もちろん、彼女に近い親族である従姉妹の私も、この場で発表をすることは事前に聞いてはいなかった。

 未来の王妃に誰が選ばれるかは、この国の宮廷では大問題のはずだ。これが知れ渡る今夜から早速方々で、貴族たちの政治的な駆け引きが始まるだろう。

 彼が望むと望まないにしろ、ラウィーニアの父ライサンダー公爵、ダニエル伯父様は大きな権力を手にすることになる。だって、順当にいけば彼は未来の王の祖父となるのだ。彼や彼に近い誰かに擦り寄っておけば、今を生きるための貴族としては間違いない舵取りになるだろう。

 大きな権力を持つ誰かの傍に居て、絶対に損はない。

「では、今夜を楽しんでくれ」

 必ずこれからいろいろな場所で始まるだろう、あまり愉快ではないやりとりに、私が思いを馳せている間に色々と終わってしまったらしい。

 王太子殿下の開会挨拶は終わって、軽やかな音楽が奏でられた。

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