破れた恋に、火をつけて。〜元彼とライバルな氷の騎士が「誰よりも、貴女のことを愛している」と傷心の私に付け込んでくる〜
 冷たい氷を思わせるような色彩を纏っているだけではなく彼は実際に氷属性の魔法を一番に得意とし所属する王宮騎士団でも筆頭騎士と呼ばれている。多くの戦闘員を抱えている軍事国家でも五本の指に入る程に、とてもとても強いらしい。

 そして、私の……つい先ほど元彼となったクレメントの、事あるごとに対立する仲の悪いライバルだとしても有名だった。

 こんな時に彼と関わるのは、あまり良くないかもしれない。人生経験を積んだ訳でもない私にだって嫌になるくらいに、それはわかっていた。

 でも、どうしてもこの場所から立ち上がる気力が、湧いて来ない。

 ここから一刻も早く離れなくてはいけないことは、ちゃんと頭では理解出来ているつもり。それが出来ているからって、言うことの聞かない体がそれでは立ち上がりましょうとなる訳もない。

 それよりも、自分の心を守るために。本当に悲しくなる前の猶予時間を、長引かせる方が重要だと思う。

 だって、もう邸に帰ってしまえば、クレメントがさっき言ったことも全部全部、現実になる。心に出来た大きな傷からだらだらと血が流れる生々しく激しい痛みになって、私に襲いかかって来るはず。
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