破れた恋に、火をつけて。〜元彼とライバルな氷の騎士が「誰よりも、貴女のことを愛している」と傷心の私に付け込んでくる〜
 馬車の中から小さな窓で外を覗き込めば、周囲を取り囲むように進む馬に乗り、国民に名の知られた騎士も何人か居たりした。

 もちろん、その中の一人は私が指名した誰かも。

 栗毛の馬に乗っているランスロットは、あちらが物語に出てくる主役の王子様ですよと誰かに紹介されても全然驚かない。むしろ、あの人が主役ではないとしたら、誰なの? となってしまう。

 同じ美形とは言え、王太子殿下は婚約者と熱愛中だし。王宮騎士団の灰色の騎士服も同系色の外套も、どこか冷たくも見えるほどに端正な顔を持つ彼に良く似合っていた。

 彼の外見は、本当に素敵な騎士ではある。目の保養で、存在に感謝さえも。けれどそれで、傷ついた私の過去の何もかもが消えてしまう訳でもない。

 この前に聞いたラウィーニアの話からすれば、最初ランスロットが私に興味を持ち、それを知ったクレメントが先んじて嫌がらせで声を掛けた。別れた後のあの様子からしても、あのバカと付き合っている間も色々とランスロットは嫌味を言われていたんだと思う。

 当時の私は確かにクレメントの事を好きだったから。彼は何も、言い返せなかったのだろう。

 その一年もの間。ランスロットはどんな事を、思っていたんだろう。

 どんなに誘われても断る、誰とも踊らない氷の騎士。彼はそう、呼ばれていたはずだった。


< 71 / 254 >

この作品をシェア

pagetop