破れた恋に、火をつけて。〜元彼とライバルな氷の騎士が「誰よりも、貴女のことを愛している」と傷心の私に付け込んでくる〜
 誰もが彼女ならばと認め五人の候補の中では一番の、完璧な公爵令嬢である必要があった。国の頂点に立つ存在となる王妃を目指すと言うことは、そういうこと。ただ寵愛されているだけでは、国を治める重責を背負うことになるコンスタンス様の治世の助けにはならない。

 そんな恋する彼女を見て、私もあんな素敵な恋が出来たらと思っていた。誰の前でも恥ずかしくない、きらめくような美しい恋だ。

 でも、今思い返せるのは憧れて破れて裏切られた、ひどい初恋。それしかない。

 世間には、もっともっと辛い思いをしている人が居るなどというお為ごかしなど、なんの慰めにもならないことなど聞きたくない。その人は私ではないように、私はその人ではないから。私の傷も、私にしかわからない。

「……ディアーヌ嬢」

 強い海風に攫われてしまいそうな声が、聞こえた。

 もちろん。私はその声の持ち主には、心当たりがあった。護衛に入れて欲しいと多忙なはずの彼をご指名したのは、私だから。

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