破れた恋に、火をつけて。〜元彼とライバルな氷の騎士が「誰よりも、貴女のことを愛している」と傷心の私に付け込んでくる〜
「あの時に、私に声を掛けようとした?」

「そうです。本当に迂闊でした。騎士団の詰め所でボールドウィンではない、同僚と貴女のことを話しました。今夜の夜会で、やっと声を掛ける事が出来ると」

「それを盗み聞きしたあの人が、私に声を掛けた。でも、それならすぐに教えてくれれば……」

「……本当にすみません。あの会場で二人で一緒に居るのを見た衝撃が強くて、気がつけば二人は完全に付き合っていました。それからは、知っての通りかと……」

 失恋した時の衝撃は、この前経験したばかりの私は生々しく思い返せるほどに理解していた。その衝撃を受け気がつけば時間が過ぎ去っていたと言うのも、理解出来なくもない。

「私は、あの事を絶対に納得はしません」

「その気持ちは、理解出来ます。もう僕も……」

「でも、ランスロット様の辛かった気持ちがわからないとは、とても言えない……私は、今も二人に怒っては居るんですけど」

「……はい」

「ランスロット様の事をもっと知りたいとは、思います。貴方が、私とクレメントが付き合っていた間。貴方が誰とも、踊らなかった理由も」

 風と波の音しか聞こえない沈黙がその場に降りて、彼は氷を思わせる色の目で私をじっと見つめている。

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