破れた恋に、火をつけて。〜元彼とライバルな氷の騎士が「誰よりも、貴女のことを愛している」と傷心の私に付け込んでくる〜
 私はその時に、ランスロットの顔を正面から初めて見た。美しく整い過ぎた、どこか非情で冷たくも思える目鼻立ち。思わず嫉妬してしまいそうな、化粧もしていないだろうに透明感のある綺麗な白い肌。

 間近で見た彼は、どこか現実味がない。驚きにぽかんとして、あんなに止まらなかった涙がやがて引いてしまう。

 大きく息を吸い込んで、出来るだけ涙声にならないようにした。

「ふふっ。この長椅子は、私の所有する物ではないもの。別にグラディス様が居ることは、先に座っていたからと言って、私に断らなくても……それは、自由だと思うわ」

 彼は私の言葉に、目を何度か瞬かせると面白そうに笑った。冷たくも見える表情が綻んだのを見て、春に雪解けを見たような不思議な気分だった。

「確かにそうだ。それでは、こうしてディアーヌ嬢が、落ち着くのを隣で待っても良い訳ですね」

「私を、待つって……何の理由で?」

 氷の騎士ランスロットが私を待つ理由なんて、何も思いつかない。素直な疑問を口に出して首を傾げた私に、彼は頷いた。

「……ずっと、待っていた。君が独り身になるのを。ずっと」

 氷の騎士は、女嫌いだったはず。

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