破れた恋に、火をつけて。〜元彼とライバルな氷の騎士が「誰よりも、貴女のことを愛している」と傷心の私に付け込んでくる〜
 彼が持つその名前には、様々な意味をも含まれていたはずだ。彼は王族の誰かに命じられて仕方なく夜会に出ようが、自分から誘わないし誘われても誰とも踊らないと聞いていた。

 さっき恋人と別れたばかりの傷心の女性に対して思わせ振りな事を言う彼に、私は皮肉を込めて淡々として言った。

「そんな事を、言ったら……誰もが、誤解しますよ。貴方みたいな素敵な人は、冗談を言うとしても、かなり言葉に気を付けないといけないと思います」

 ランスロットは何を思ったのか、寂しげに微笑んだ。

「……こうして一人で泣いている理由を、聞いても?」

「失恋したの。良くある話でしょう?」

 自嘲するように笑うと、涙が乾きかけの頬が引きつれた。化粧も取れてみっともない事になっているとは思うけれど、なにもかもがどうでも良かった。

 そうして、私は思った。このランスロットは、失恋したことなんて……あるのだろうか。きっと、ないだろう。なんとなくの予想だけれど。それにもし別れを告げるなら、この彼からのはずだ。

 今の私のように、必要のないものとしてあっさりと捨てられた、みじめな想いなど味わったことなどないはずだ。

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