破れた恋に、火をつけて。〜元彼とライバルな氷の騎士が「誰よりも、貴女のことを愛している」と傷心の私に付け込んでくる〜
 改めて見ると、クレメントの顔は整っている。騎士らしく凛々しく精悍で、魅力的な容姿だ。そして、短い黒髪と赤い目は、この地方では珍しい。一年間、想った人だった。自分を殺して無理してでも、どうにかして一緒に居たかった。

 けれど、そんな魅力的な彼の持つ何もかもに、今はもう何も動かされることはなかった。

 多分、きっと騙されていただけの理由ではなかった。大好きだった元彼なのは、確かだった。失恋した時に受けた衝撃の大きさで、その事は間違いない。

 私は今、もう違う人に想いを寄せているのだと気がついた。

 ランスロットは、人が見ればとても不器用でわかり難いけれど、私の事を好きだと言葉でも態度でも何度だって懸命にまっすぐに伝えてくれていた。

 クレメントには、それがない。魅力的な騎士ではあるけれど、ただそれだけ。

「よろしくお願いします」

 私の彼に向かって差し出した手を、クレメントは何も言わずに大きな手で握った。移動魔法が発動する。全身が何かに吸い込まれるような感覚がして、瞑っていた瞼を開けば、そこはもう鬱蒼とした森の入り口だった。

「ここからは……本当に危険なんで。俺の傍を出来るだけ離れないで。怪我なく生きて帰りたければ」

 脅されるように言われなくても、絶対に生きて帰る。そうして、ランスロットの呪術を解きたい。

 彼と話したい。沢山。今までの何もかも。今まで私が、疑問に感じていた事全部を。

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