【コミカライズ決定】王太子妃候補クララの恋愛事情~政略結婚なんてお断りします~
(考えてみれば、淑女にあるまじき行為よね!)


 長いドレスの裾を持ち上げ、息を切らして走るなど、公爵家の令嬢が取って良い行動ではない。だからこそ先程は、人気のいない中庭をこそこそと移動していたはずなのに、今はカールの命令で動いているため、そんなことは言ってられない。直線距離を全力疾走する。恐怖と不名誉な噂の二つを天秤に掛ければ、圧倒的に前者が強いので致し方なかろう。

 やっとの思いでカールの元に戻ると、彼は開口一番「遅い!」と叫んだ。


「すみません…………これでも必死にっ……走って来たんです」


 全身ダラダラと汗を流しながら、クララは息を整える。それから、侍女たちから受け取ったミルクと麻布を手渡すと、地面にへたりと座り込んだ。

 カールは何も言わぬままクララからミルクを受け取ると、仔猫をそっとうつ伏せに抱く。筋肉のがっしりと付いた太い腕だ。

 彼はそのまま慈しむような視線で仔猫を見下ろすと、口に少量のミルクを含ませてやった。気持ち良さげに目を細める仔猫はあまりにも可愛い。クララは疲れも忘れて、ふにゃっとした笑みを浮かべた。


「かぁわいい~~~~!ちっちゃ……っ!可愛いなぁ~~~~~~」


 仔猫の真正面を陣取り、その愛らしさを観察する。ふわふわの毛並み、気持ち良さげに細められた瞳、指でツンツンと触りたくなる小さな鼻に、必死に指に吸い付く可愛らしい口。胸がキュンキュンと跳ねて、幾つあっても足りそうにない。


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