【コミカライズ決定】王太子妃候補クララの恋愛事情~政略結婚なんてお断りします~
「……交代しろ」

「んっ……はい」


 カールは余程クララを羨ましく思ったのだろう。悔し気に眉を曲げ、クララに仔猫を手渡してくる。力強い腕からは想像も出来ない程に優しく、壊れモノを扱うような丁寧さだ。


「猫……お好きなんですね」


 仔猫を撫でながら、クララは尋ねた。

 目の前のカールは、クララがいることも忘れ、キラキラと瞳を輝かせている。
 この1か月間、割と顔を合わせる機会があったが、彼がこんな顔ができることをクララは初めて知った。もしかしたら、彼の内侍であるイゾーレだって、カールのこんな一面は知らないかもしれない。


「…………可愛いではないか」


 ややしてカールはポツリとそんなことを呟いた。


(この人の口から『可愛い』なんて単語を聞ける日が来るとは)


 よく見れば、カールの口の端が上向いている。無表情か怒った表情ばかり見ていたが故、ギャップが凄い。


(こうやって見ると、他の二人に似てるかも)

 ふふ、と小さく笑いながら、クララは微笑んだ。

 いつも深く刻まれた眉間の皺が、彼の人相を変えていただけで、元の顔の造りは兄弟たち――――ヨハネスとフリードに似ているらしい。


「何を笑っている」

「別に、なんでもございません」


 ほんのりと紅く染まったカールの頬。可愛らしい、なんて感想を抱くのは失礼だと思いつつ、クララはもう一度小さく声を上げて笑ったのだった。
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