【コミカライズ決定】王太子妃候補クララの恋愛事情~政略結婚なんてお断りします~
 それは、クララの逢瀬の相手――――仔猫と出会ったあの日のこと。


「おまえ、この子を誰かが迎えに来ると思うか?」


 お腹の一杯になった仔猫と戯れながら、カールが尋ねる。

 太い指先がちょこちょこと空を舞い、動きに釣られた仔猫が軽いパンチをお見舞いする度、クララの胸がキュンと疼く。カール自身も先程からノックアウト寸前といった様子で、悶絶を繰り返している。観察対象が二つもあると中々に忙しいなぁ、とクララは微笑んだ。


「いえ。恐らくは来ないでしょう。親猫とはぐれたか――――あるいは、城の人間がこっそり飼っていた猫が子を生んで、意図的に置き去りにされたか……どちらかだと思うので」

「後者だとしたら許せん!見つけたらすぐに罷免し、罰を与えてやる!」


 そう言ってカールは怒りで顔を真っ赤にし、拳をわななかせている。


「落ち着いてください。あくまで仮定の話ですよ」


 クララがそう伝えても、カールは怒りが治まらないらしい。ふーふーと息を荒げている。


「…………ごめんなさい、前言撤回します。答えはきっと前者です。だって、城の中に捨てるなんてリスキーなこと、わたしならしませんもの。隠して王都に連れて行って、そこで捨てます」

「そうか。うむ……親とはぐれたなら仕方なかろう」


 カールはそう言って、ようやく落ち着きを取り戻した。

 なんとなくだが頭の固い人間――――もといカールの懐柔方法が見えてきた気がして、クララはほっとため息を吐く。饗宴の際、コーエンが回りくどい方法を取った理由を身を以て知った気がした。


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