【コミカライズ決定】王太子妃候補クララの恋愛事情~政略結婚なんてお断りします~
 カールは唇を尖らせ、顎に手を立てて唸った。
 何か問題でもあるのだろうか?と考えたところで、クララはカールの普段と今のギャップを思い出す。


(殿下は威厳が全て、みたいなお人だものね)


 クララのことは良く知らない人間だから『バレてしまったからには仕方がない』と思えたかもしれないが、彼が他の人間に対してもそんな風に思えるかは別問題だ。


(わたしは良いと思うんだけどなぁ、このギャップ)


 彼の強さや厳しさ、規律を重んじるその様を尊敬し、従っている人間は多いだろう。けれど、彼の従者の中には少なからず、恐怖のみに支配された人間もいるはずだ。そんな人間が今の彼を見たら――――そのギャップに惹かれるのではないだろうか。


「よし、決めた!」

「はっ……なにをですか?」

「おまえ!」

「はい……っと、わたしですか?」

「そうだ、おまえだ。これからこの猫をフリードの宮殿で飼え!」

「えぇっ!?」


 即座に返事をしなければ怒号が飛ぶと分かっていて、クララは必死でやり取りを返す。


(でも待って!わたしが宮殿でこの子を飼うって……)


 フリードは相談すれば許可してくれるかもしれないが、今の段階で勝手に安請け合いをするわけにもいかない。

 とはいえ、カールが決めたというからには、答えはイエスしかないのだろうと察しがついた。


「それから、飼うのはフリードの奴にバレぬよう、こっそりにしろ!バレたら俺が会いに行けなくなる」

「えっ、会いに来るんですか?」

「当たり前だろう!」


 仔猫を小脇に抱えながら、カールはくわっと身を乗り出す。以前のクララならば、ただただ怖いと思っただろう。けれど今は、不思議と笑いすら漏れてきた。

 かくして、コーエンやフリードには内緒の『仔猫の定時報告』という業務が、クララに加わってしまったのだった。




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