【コミカライズ決定】王太子妃候補クララの恋愛事情~政略結婚なんてお断りします~
(分かっているのに手放せないのは、苦しさの中に幸福感や甘さを感じているから)


 今だってクララは、あんなセリフを吐いておきながら、コーエンが優しい言葉を吐いてくれることを心のどこかで期待している。優しく抱き締めてくれることを望んでいるのだ。


(こんなわたしに王太子妃の資格なんてない)


 それが、この数か月間でクララが辿り着いた結論。

 けれど、今この場所に縋りついてさえいれば、少なくともその間、コーエンはクララの側にいてくれる。クララの存在を望んでくれるし、喜んでくれる。そう分かっているから退くこともできない。


「クララ……俺はクララだけのものだよ」


 望み通りの言葉。優しくて温かい抱擁。慈しむような口付けに、クララの心の中にじわりじわりと甘さが蓄積されていく。

 目を開ければ、まるで恋が成就したことを喜ぶような、嬉しそうな微笑みがクララを見下ろしている。けれどクララはまだ、コーエンのようには笑えそうにない。


(嘘吐き)


 誤魔化すようにコーエンを抱き返しながら、クララはそっと涙を流した。
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