【コミカライズ決定】王太子妃候補クララの恋愛事情~政略結婚なんてお断りします~
(あぁもう……折角の良い気分が台無し)


 クララは思わず唇をへの字に曲げる。モヤモヤと行き場のない感情が身体の中心を蠢く。


(そういうことは、人のいない場所でしてほしいものだわ)


 頬へのキスは挨拶の一つ、という国もあるようだが、この国では違う。
 盛大な貰い事故に、クララは大きなため息を吐いた。


「なぁ、俺らもする?」

「へ!?」


 その時、耳元で囁かれた艶を含んだ低い声。思わず振り返れば、コーエンが意地の悪い笑みを浮かべ、クララの手を握っていた。


「さっきヨハネスとレイチェルのこと見てただろ?羨ましいのかなって思って」

「そんなこと、あるわけないでしょう!?」


 コーエンはグローブを嵌めた手のひらで、驚くほどしっかりとクララを掴んでいる。ブンブン振ったところで、放してくれる気はないらしい。それでも必死に手を振りほどこうと藻掻きながら、クララは頬を紅く染めた。


(ホント、腹が立つなぁ)


 コーエンは今、クララを揶揄いたいだけなのだろう。ヨハネスたちに、『クララがフリード以外の男性を想っている』と感じさせてはならないからだ。

 王位を継承するにあたり王子たちに必要なものは、己自身の実力と後ろ盾、そして王妃候補との関係の築き方だという。

 ならば、公の場では特に、クララはフリードとの親密さをアピールすべきだ。コーエンだって当然、そうと認識しているはずである。


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