【コミカライズ決定】王太子妃候補クララの恋愛事情~政略結婚なんてお断りします~
 きっとフリードやコーエンは、不戦勝を喜んで受け入れるだろう、とクララは思う。

 今回は、誰も傷つく人間がいないので、フリードもコーエンも争うことを躊躇いはしない。けれど、回避できる争いは回避し、被害を最小限に食い止める。それが彼等の戦い方だ。


「分かりました。では、こちらも全力でお相手しましょう。ちょうどあなたとは、因縁もあることですし」


 コーエンはそう言って、チラリとクララを振り返る。
 意地悪に細められた瞳が妙に魅惑的だ。クララは思わず心を震わせた。


(何よ)


 この面子では、嫌でもあの日の出来事を思い出してしまう。


『クララは――――クララは俺のものだ!』


 今の慇懃な口調とは異なる、捻りも余裕も全くないコーエンの言葉。宮廷で大人たちと対等に渡り合うため、己の本音を巧妙に隠してきたコーエンの本心。それが嫌でもクララの心を熱くする。

 誰にも見えないよう繋がれた、コーエンとクララの手。勝利を約束するかのような力強い手のひらに、クララは静かに微笑んだのだった。
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