【コミカライズ決定】王太子妃候補クララの恋愛事情~政略結婚なんてお断りします~
「クララ様」


 その時、背後からクララの名を呼ぶ声がした。イゾーレの声だ。
 けれど、顔を上げてすぐ、クララは「えっ!?」と目を丸くした。


「お隣、宜しいでしょうか」

「そ、そりゃぁ宜しいけど……」


 答えながらクララはついつい口ごもってしまう。

 イゾーレは普段流している長い髪の毛を高い位置で一つにまとめ、軍服を身に纏い、見るからに重そうな剣を腰に挿していた。女騎士さながらの風貌。けれどそれが、イゾーレによく似合っている。


(だけど、さっきまではドレス姿だった筈なのになぁ)


 不思議に感じている間に、イゾーレはクララの隣に腰掛ける。彫刻でできたかのような美しく凛々しい横顔に、クララはほぅとため息を吐いた。


「どうしたの?その服装」

「殿下にお借りしたのです。……本当はこの装備で狩にも付いていきたかったのですが、断られてしまいました」


 イゾーレは抑揚のない声でそう語る。けれど、何故だかクララにはその奥に隠されたイゾーレの感情が読み取れるようになっていた。


「残念だったわね」

「はい、とても。……私も殿下のお役に立ちたかったのに」


 真っ白なイゾーレの手のひらが、ギュッと剣の柄を握る。何やら意地らしいその様に、クララはキュンと心臓を高鳴らせた。


< 135 / 250 >

この作品をシェア

pagetop