【コミカライズ決定】王太子妃候補クララの恋愛事情~政略結婚なんてお断りします~
 それはもう何度も、己自身に言い聞かせた言葉。コーエンへの想いをクララ自身が認めるだけで、随分と楽になれた。胸を焦がすほどの嫉妬心を抑えることができた。


(イゾーレが求める言葉もきっと同じ)


 そう信じて、クララは真っ直ぐにイゾーレを見つめる。


「……はい」


 イゾーレはやがて、コクリと力強く頷いた。その瞳には涙がいっぱいに溜まっている。


「私、カール様をお慕いしているんです。とても尊敬しているし、好きで好きで堪らない。あの方の力になりたい」

「うん」


 美しいイゾーレの顔がクシャクシャに歪む。けれどそれは、これまでクララが見てきたどんな彼女よりも綺麗だった。


(なんだか、こっちまで泣けてきちゃう)


 イゾーレの背を擦ってやりながら、切なさが胸いっぱいに広がる。どうか、イゾーレだけでも幸せになってほしい。

 そう願ったその時。ガサガサッと近くの茂みが大きく揺れ動く音が聞こえた。

 なんだろう、とクララが振り向いたその瞬間、木の陰に見え隠れする大きな黒い影。


(まっ、まさか……)


 呼吸をすることすら忘れ、クララは恐怖に身体を強張らせる。


「イッ……イゾーレ」


 殆ど聞き取れないほどの声音でクララがイゾーレに呼びかける。

 涙を拭いながらイゾーレがゆっくりと後を振り返ったその時。木々の間を縫う様にして、一頭の巨大なクマが二人の前に姿を現した。
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