【コミカライズ決定】王太子妃候補クララの恋愛事情~政略結婚なんてお断りします~
(なるほどね。だからわたしが選ばれたのか)


 公爵であるクララの父は、この国の宰相だ。パワーバランスを考えれば妥当な線だろう。
 一人でそう納得しながら、クララは恭しく頭を垂れた。


「ところで、どうしてお二人はここへ?ヨハネス王子の宮殿からは随分離れておりますが」


 そう口にしたのはコーエンだった。

 先程までの不敵な振る舞いは一変し、慇懃な物言いに態度を取っている。真面目で誠実さすら窺えるその表情は、まるで先程とは別人のようで、クララはドギマギしてしまった。


「あぁ、レイチェルがフリードの宮殿を見てみたいって言うからちょっとね。お邪魔だったかな?」

「いえ。俺もクララに城を案内している途中なので。――――今日はこれで失礼します」


 コーエンはヨハネスたちに向かって小さく礼をすると、クララを先導するように歩き始める。クララも二人に礼をしてから、コーエンの後を追った。

 するとすれ違いざま、レイチェルとクララの視線がかち合う。クララは淑女らしく穏やかに微笑もうと、そう思っていた。けれど、そうは出来なかった。
 レイチェルの可愛らしい瞳のその奥に、言葉で表しがたい熱い何かが見えたからだ。


(これは――――敵意だわ)


 自覚した瞬間、クララはゾクリと身体を震わせる。

 それがフリードに向けられたものなのか、クララ自身に向けられたものなのかはわからない。けれど、あの可憐な見た目とのギャップはあまりに大きい。得体の知れない不気味さを感じて、クララはそっと、自分自身を抱き締めた。
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