【コミカライズ決定】王太子妃候補クララの恋愛事情~政略結婚なんてお断りします~
「あの、わたしはイゾーレの様子を見てきても良いでしょうか?そろそろ意識が戻っているかもしれませんし」


 作業の邪魔にならぬよう、そっと手を上げクララが提案する。

 イゾーレはつい先ほど、フリードの付き人たちが安全な場所へ運んでくれた。命に別条はないと確認しているものの、運ばれたときには意識を失っていたし、怪我の状態も分からないため心配していたのだ。


「うん、それが良いよ。行っておいで、クララ」


 フリードはそう言って快くクララを送り出してくれる。
 けれど踵を返して、しばし。クララは顔だけをクルリとコーエン達の方に向けた。


「カール殿下……宜しければ殿下も一緒に行きませんか?イゾーレもきっと、その方が喜びますし」


 自分で提案しておきながら、クララの身体に緊張が走る。この場にはカールの部下も数人いるし、怒鳴られるかもしれない。そんな覚悟もしていた。


「うむ……そうだな。そうしよう」


 けれど意外なことに、カールはすんなりとクララの提案を受け入れた。

 カールは徐に腰を上げると、何も言わず、クララよりも先にイゾーレの元へと向かう。クララも慌てて彼の後を追った。少し走ったところで、悠然と歩みを進めるカールに追い付く。


「――――あの熊も、里に下りなければ、命を落とすことは無かっただろうに」


 ポツリと、まるでひとりごとかのようにカールが呟く。
 それはきっと、先程からカールが己の中でずっと呑み込み続けていた言葉だろうとクララには分かった。


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