【コミカライズ決定】王太子妃候補クララの恋愛事情~政略結婚なんてお断りします~
(きっと、部下たちには聞かせたくなかったのね)


 騎士たちはいざという時、人の命をも奪うことを想定して訓練に励んでいる。

 熊の命をひとつ奪ったことをこんな風に悔やんでいては、とてもじゃないが仕事にならない。そうと分かっていて、けれどそうと受け入れられなくて、カールは人知れず葛藤していたのだろう。


「そうですね。仕方がないこととはいえ、気の毒に思います」


 クララは胸にそっと手を当てながら、そう口にした。

 カールは好戦的で、力こそ全てだという人間だ。初めに抱いたその認識は、クララの中で今も変わっていない。

 けれど彼は、生き物を慈しむ心を持った、温かい人間だった。

 決して悪戯に武をひけらかしたいわけでもないし、海の向こうのどこかの国へ戦を仕掛けようというわけでもない。

 ただ、大切なものを守るために必要な力を持ちたい。それこそがカールの願いなのだろう。


(やり方次第では、カール殿下も素晴らしい国王になれるかもしれない)


 今のままでは人に余計な誤解を与えるばかりだし、考え方が少々行き過ぎたり、融通が利かなかったりするため難しい。

 けれど今後、彼の考えを理解し、他者へ代弁してくれる者や、彼が行き過ぎたときに止めてくれる人が出てくれば、或いは道があるかもしれないとクララは思う。


(前にコーエンが『何事もバランスが大事』って言ってたけど)


 本当にその通りだなぁ、とクララは思う。
 それからカールは、イゾーレの元に着くまで、一切口を開かなかった。


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