【コミカライズ決定】王太子妃候補クララの恋愛事情~政略結婚なんてお断りします~
 チクッともう一度刺すような痛みとともに、コーエンの唇が離れた。クララはじんじんと震えるような熱い吐息を吐きながら、チラリとコーエンを覗き見る。

 悪戯をした後のような不敵な笑みを期待していたクララは、大いに後悔した。

 熱っぽい青い瞳を切なげに細め、上気した頬。普段よりも紅い唇。こういう時のコーエンはすごく心臓に悪い。


(あぁ~~~~もう、好きっ。すっごいムカつくけど!わたし、コーエンが好きなんだなぁ)


 クララは眉間に皺を寄せながら俯く。
 感情がちっとも制御できない。自分が自分じゃ無くなってしまったみたいで落ち着かない。

 コーエンはそっとクララの顔を上向けると、触れるだけのキスをした。時間にして一瞬の、些細な触れ合い。それでも、心と身体は敏感に反応する。まるで全身が心臓になってしまったかのように、バクバクとうるさい。

 コーエンはもう一度コツンと額を重ねると、小さくため息を吐いた。


「何がそんなにクララをやる気にさせたかは分からないけど。……頼むからさ、無茶はするなよ」


 真摯な瞳。コーエンは本気でクララのことを心配してくれていたのだろう。そう思うだけで、嬉しくて堪らなくなる。


「………うん」


 額を重ねたまま、クララは小さく頷く。

 頬を温かな両手で包まれ、見つめ合う。この世にまるでクララしか存在しないかのような眼差しが、とても照れくさい。少しだけ視線を逸らして、ややしてもう一度コーエンの瞳を見て、敢え無く撃沈。一瞬落ち着いたはずの心臓が、また早鐘を打ち始める。


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