【コミカライズ決定】王太子妃候補クララの恋愛事情~政略結婚なんてお断りします~
(シリウス様の未来を守るため)


 不正の証拠が出ず、後に謹慎が解かれたとしても、嫌疑が掛かっていたことが知れ渡っていれば仕事がしづらい。ならば別の理由を作り、皆の意識を逸らした方が良い。


(カール殿下……ただでさえ誤解されやすい人なのに)


 そんな一言を胸に秘めつつ、クララは微笑むことしかできない。相変わらずの不器用な優しさ。それが胸を優しく撫でつけた。


「――――フリード、頼む」


 再びカールの声が聞こえて、クララが顔を上げる。


(えぇっ!?)


 見ればカールは、頭を机に擦りつけんばかりに下げていた。傍らでイゾーレが目を丸くして驚いている。最近若干丸くなったとはいえ、カールがこんな形で頭を下げるとは信じられない。クララも一緒になって驚いた。


「あいつが――――あいつの家が不正にかかわっていないのなら、できれば助けてやってほしい。密猟の目的は十中八九『金』だ。だとすると、証拠固めの段階から、どうしても財務からの情報が必要になる。だが……俺は社交面や交渉術に長けていない。それに、仮に情報を得られたとしても、それを最適な形で扱うことが難しいのだ」


 己に足りない部分を冷静に分析しながら、カールは俯く。


(カール殿下……)


 カールの性格を考えれば、『できないこと、苦手なこと』を認めることは大きな苦痛だろう。
 何とかしたい。何とかしてあげてほしい――――そんな願いを込めて、クララはフリードを覗き見る。


「そんなの、頼まれなくてもやるって――――だろう、クララ?」


 けれど、カールの要請に答えたのはコーエンだった。不敵な笑みを浮かべ、クララをチラリと見上げている。

 見ればフリードも「うんうん」と言いながら小さく頷いていた。ならばクララの答えは一つだ。


「もちろん!お任せください」


 ドンと胸を叩きながらクララは笑う。
 カールは目を細めて笑うと、小さな声で「ありがとう」と呟いたのだった。
< 168 / 250 >

この作品をシェア

pagetop