【コミカライズ決定】王太子妃候補クララの恋愛事情~政略結婚なんてお断りします~

28.閲覧制限とキーパーソン

 クララは放心状態のまま、城の中を一人、トボトボと歩いていた。


(事前に聞いてはいたけど、ここまでとは……)


 ついついため息まで漏れてしまう。

 というのも、クララは今しがた国家の予算を司る『財部』と呼ばれる部署へ赴いていた。

 財部は国や王族の予算、収入や支出の使途や配分の全てを取り仕切る部署だ。各部署から上がって来た予算案を査定するのも、ここで働く人間の仕事である。

 けれど、彼等の査定は毎回えげつない。真っ赤になって返って来た予算案を見て、涙を流す人間が後を絶たないらしい。

 クララもいずれ予算を担当する予定だが、要求時期はもう少し先のことだ。その上、これまでに財部と関わる仕事も無かった。
 このため、財部に関する情報は、他の部署の人間から事前に仕入れた。


『あいつらには感情なんてない。数字が恋人って人間の集まりだよ』


 クララが話を聞いた礼部の文官は、こう言って唇を尖らせた。


『どんなに必要性を訴えても、年々うちへの予算は減らされちまう。他の部署もそうだ。そのくせ、自分のとこの予算はしっかり確保してるんだから頭にくる』


 余程酷い目に遭ったのだろうか。普段は温厚な文官だというのに、その時ばかりは拳を握りしめ、悔し気に身体を震わせていた。


『エリート意識っていうの?同じ文官なのに、財部に配属されてるってだけで、立場が上だと思ってる。自分たちは選ばれた人間だって勘違いしてやがるんだ。その上、情に訴えたところで、あいつらにとって大事なのは数字だから意味がない。クララ嬢にもすぐに分かるよ」


 苦々し気な忠告。けれど、現実はもっと苦かった。

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