【コミカライズ決定】王太子妃候補クララの恋愛事情~政略結婚なんてお断りします~
 これまで第3王子、フリードに関する噂は極端に少なかった。社交の場にも殆ど顔を出さず、人柄や容姿なども伝わっては来ない。ヨハネスの弟なのだから、同じような価値観を持っているのではないかと心配していたのだ。


「わたし、これまでもお父様に提案していたんです。我が家の資産を、例えば関所の整備や川の堤防を整備することに使えないかって。そうすれば人々の生活が今よりも便利に、豊かになりますもの」


 宰相である父は、いつだって国や民のために自分が何をできるのか考えている。だからクララも父のように、何事にも自分なりの考えを持つこと、それを言葉にすることを心掛けていた。優しい父は否定も肯定もせず、いつもクララの話に耳を傾けてくれたのだが。


「――――――盛り上がってるとこ悪いけど、そういう金の使い方は公費ですりゃ良いだろ。私費は自分の好きなものに使って、他の産業だって回していかないと」


 コーエンが徐に口を開く。クララが呆気にとられていると、コーエンは更に言葉を重ねた。


「公共事業ばっかじゃ恩恵を受けられる人が限られるんだよ。飯を買えば農家や小売店が儲かるし、服を買えば仕立て屋とか、そこに布を卸してる奴が儲かる。そうして儲かった奴が別のところで金を使っていくわけで。――――まぁ、ヨハネスやレイチェルなんてのは節度のない金の使い方に見えるからあれだけど、自分の好きなものに投資することも大事だろ?要は何事もバランスが重要なんだから、公費と私費は分けて考えなきゃダメなんだよ」


 コーエンがビスケットを齧りながらため息を吐いた。


「そう……そうね。確かに、そうかも」


 クララは顎に手を当てポツリと漏らした。

 皆が助かる、という概念は案外曖昧なものなのかもしれない。どう足掻いても恩恵を受ける人、受けない人の差は生じるのだ。


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